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ワーク・ライフ・バランス・コンファレンス2013
開催レポート
―第7回「ワーク・ライフ・バランス大賞」表彰式―

写真  2013年11月19日、「次世代のための民間運動〜ワーク・ライフ・バランス推進会議〜」と公益財団法人日本生産性本部は、東京都内で「ワーク・ライフ・バランス・コンファレンス2013」を開催した。
ワーク・ライフ・バランス推進会議では、2006年8月の立ち上げ以来、「働き方」と「暮らし方」双方の改革によって、「調和のとれた生活」の実現を図る運動を進めている。同コンファレンスは今年で7回目であり、ワーク・ライフ・バランス推進の社会的意義を高め、より一層の普及啓発を目指している。当日は約200名が参加し、基調講演、「第7回ワーク・ライフ・バランス大賞」の表彰式、受賞した3組織による事例紹介が行われた。

「開会あいさつ」

 冒頭、ワーク・ライフ・バランス推進会議代表幹事で実践女子大学教授の鹿嶋敬氏が挨拶に立ち、「2006年に立ち上げたワーク・ライフ・バランス推進会議は働きやすさの向上、2008年に立ち上げたワーキングパワーアップ会議は働きがいの向上を目指し、この2つを両輪として運動を展開してきた。安倍政権になってから『女性の活躍推進』という言葉をよく耳にするようになったが、それを実現するためには様々なインフラの整備が必要であり、その基本をなすものがワーク・ライフ・バランスである。ワーク・ライフ・バランス推進会議では、『ワーク・ライフ・バランスは成長戦略の基盤である』というメッセージを発信した。本日は様々な好事例が発表されるが、是非皆様にとって良い参考例となり、ワーク・ライフ・バランスの推進につなげていただければと思う。」と述べた。

「企業経営とワーク・ライフ・バランス」

写真  続いて、昨年の「第6回ワーク・ライフ・バランス大賞」大賞受賞組織である、(株)アイエスエフネット代表取締役の渡邉幸義氏が、「企業経営とワーク・ライフ・バランス〜雇用創造革命〜」と題して講演を行った。

20大雇用の実現のために
 「当社では創業当初から就労困難者の雇用創出に取り組んでいる。20大雇用とは、ニート、フリーター、障がい者、ワーキングプア、引きこもりなど、20分類の就労困難者のことである。その人たちの雇用をつくろうと思い、就業規則を繰り返し変えていったことが、昨年の受賞につながったと考えている。私は、20分類の就労困難者を雇ってみた結果、全て雇用できることが分かった。もちろん苦労も多いが、様々な対処の結果、今は会社の組織としてきちんと成り立っている。
 就業困難な理由には、本人に責任のない理不尽なものも多い。私の雇用の原動力は、この理不尽さとの戦いである。だから生活保護受給者もホームレスもDV被害者も、就業するのに親元保証や住民票は必要ない。例えばそういった就業規則をつくってきた。
 私にはもう1つの使命があると考えている。会社を成長させ続けるということである。自分のためではなく、彼ら(就労困難者)のためである。私の会社が成長して利益が上がれば、彼らに給料を支払うことができる。それによって、彼らは人としての尊厳、自分がこの世に存在している証を持つことができる。今まで企業に就業を断られてきた人たちが、会社で十分な利益貢献をしてくれる。雇用を通じて納税をし、社会に貢献するということである。そういう意味で、働くことはとても大事なことだと思う。

障がい者雇用について
 実は『障がい』だけでも知的、身体、精神、発達など様々あり、発達だけでもLD、ADHD、アスペルガー症候群、ディスレクシアなど、たくさんある。しかもこれらの重複障がいも多い。その一つひとつを、その人に寄り添って、知っていくことが大切だと思っている。その人を知ってその対処のための処方を何度も繰り返し、初めてその人に合った処方箋が生まれる。
 海外ではよく、知的障がい者のことをギフテッドパーソンと呼んでいる。仲の悪いグループに1人の知的障がい者を入れると、その人を中心に皆が助け合い、目線が相手目線になるという考え方である。私は就労困難な方を全部門に配置してみた。この方々が働く職場で何か問題が起こったかというと、全く起こらなかった。問題が起こるどころか、3カ月経つと不思議と馴染んでくる。それが1年経つと、ほぼ全員『これからも一緒にやりたい』と言う。これはやってみて初めて分かった。
 私の著書に、『お母さん、障がいの子どもを応援しますよ。』という本がある。私の障がい者雇用の基本は、母親との対話である。障がい者の雇用と健常者の雇用は大きく異なる。健常者の場合は会社に入社した時が雇用のスタートであるが、障がい者の雇用は、入社した時が自立のスタートである。まずは働き、そこから自分の強みを理解して、自分の給料で生活できるようになった時点が親から見た場合の障がい者の雇用のスタートであり、これが親の願いである。

受賞後の取り組み
 大賞受賞から現在までに、グループ全体の従業員数が2割増え、それ以上に障がい者手帳保持者が約3倍となっている。1つ目のトピックとして、青山の本社近くに保育園をつくった。現在、産休・育休明けの女性社員は100%復帰して、1人も退職していない。他社に勤めている女性への一時保育の支援も行っている。今後はすべての主要拠点に保育園をつくっていこうと考えている。
 他のトピックとしては、例えば川崎市と連携して生活保護受給者の就労支援に取り組んでおり、この3カ月間で約25名近くを雇用している。他にも新潟県と連携して障がい者雇用プラス生活支援、沼津の雇用創造オフィス開所、松島町との連携による精神・知的障がい者の農業就労などを行っている。

雇用してから仕事をつくる
 当社がこの20大雇用というモデルを成功させた理由のひとつは、『ご家族と語る会』である。総勢1万人以上の就労困難者の親と話をして、その中でいただいた言葉をベースに、雇用をつくってきた。  
 次に、偏見のない社風である。私は障がいのあるメンバーと毎月食事会を行う中で、1人ひとりに対して『ほめる』ということを、何年もやっている。偏見や差別は、会社の社風から生まれるものである。法定雇用率のため仕方なく雇用するではなく、トップが『彼らはこの会社にとって大切な人なんだよ』というメッセージを送れば、従業員は皆優しくなり、相手目線になる。  
 最後は、『人のために汗をかくこと』である。当事者のご両親から話を聞いて、会社の仕組みをつくり、トップ自ら現場に行き、偏見のない会社をつくろうとしても、現実として目の前にある仕事が増えるということは、人間は嫌なものである。そのようなとき私は、ある人から教えていただいた『1人1秒のプレゼント』というエッセイを読むことにしている。このエッセイを聞いて感動しない人は1人もいない。感動とは共感である。共感とは、『それをしたい』ということである。私達は人のために汗をかきたい、ということである。時間を要したが、1人、2人と変わっていき、今は本当に社員の皆がこうした想いを持ってくれている。  
 私の雇用のモデルは、仕事をつくってから雇用をつくるのではない。雇用してから仕事をつくる、ということを13年間やり続けて来た。そうするといつの間にか仕事がつくれるようになった。私はこれからもこのような雇用を続けていきたいと思っている。今日の話が少しでも皆様の参考になればうれしく思う。」と述べた。

「第7回ワーク・ライフ・バランス大賞表彰式」

 第7回ワーク・ライフ・バランス大賞の表彰式が行われ、ワーク・ライフ・バランス推進会議代表幹事の鹿嶋敬氏より、受賞組織(優秀賞5社、奨励賞1社)の代表者に表彰状と記念の楯が授与された。 (受賞内容についてはこちらをご覧ください。)

 ワーク・ライフ・バランス推進会議推進委員/(株)キャリアン代表取締役の河野真理子氏は講評で、「今回エントリーのあった組織は、どこも皆、努力し、トップ自らが熱心に取り組んでいる。受賞した組織の取り組みをもとに、多方面でワーク・ライフ・バランスの取り組みがさらに活性化されることを期待している。」と挨拶した。

写真

「ワーク・ライフ・バランス大賞 受賞者の成功事例に学ぶ」

 表彰式に続いて、受賞者の成功事例に学ぶ、と題してパネル討論が行われた。登壇者は、受賞企業の中から、住友生命保険(相)人事部人事室担当室長 相川恵美氏、(株)百五銀行人事部人事課長 荒木田豊氏、(株)PFU人事部主任 古谷正美氏の3氏。ワーク・ライフ・バランス推進会議推進委員の河野真理子氏のコーディネートにより進められた。

写真 住友生命保険の取り組み
 相川氏は、「2011年の3月から新しいコーポレートブランドを展開している。新ブランド浸透に向けての行動指針の1つに、『全ての役職員が互いを尊重しながら協力して働く明るく活き活きとした職場を築くこと』と明示した。取り組みの一環として、全役員が毎年全国88箇所の支社に出向いて職員と意見交換を行う『対話ミーティング』を実施しており、ミーティングの中では、働き方や業務の見直しなど、好事例の紹介や課題の共有を通じて働く風土の醸成を進めている。
 女性の活躍推進に対しては、当初、女性が拠点長として活躍している営業部門とは対照的に、事務部門には女性管理職がほとんどいないという状況であった。限られた時間内に効率よく働くことも必要であり、そのため、テレビ会議の活用による出張の抑制や社内PC利用時間の制限など、企業風土を改善して、すべての役職員がライフステージに応じた多様な働き方が実現できる、やりがいと充実感を感じながら活き活きと働くことのできる環境づくりを目指してきた。
 また、管理職向けの講演会や、ハンドブックの配布などを通じて、ワーク・ライフ・バランス推進への理解を促している。その他にも、社内にとどまらず『安心して子どもを産み、育てる社会づくり』を重要課題と捉えており、子育て支援活動の公募・表彰や、NPOとの連携による子育て環境の整備など、社会に向けた取り組みを展開している。」と述べた。

百五銀行の取り組み
 荒木田氏は、「2005年頃からワーク・ライフ・バランスの推進運動に積極的に取り組んでいるが、その頃からの課題として、『育児と仕事の両立が行いやすい職場環境の実現』、『男性の仕事と家庭の両立支援の推進』、そして『女性管理職の積極的登用』が挙げられる。このような課題に対して様々な制度の新設、改定、その定着を目指してきた結果、働き方の選択肢が増え、職場環境は以前よりも随分整ってきたと感じている。近年では、産前・産後休暇、育児休暇、復帰後の勤務時間短縮制度、所定外労動免除制度などの利用者は増加傾向にある。特徴的な取り組みとして、頭取自らが各地域に出向き、『コミュニケーションミーティング』というものを定期的に実施しており、各地域の行員とコミュニケーションを図りながら、得られた意見を経営方針に反映している。
 また、アシストスタッフ(パートタイマー)からキャリアスタッフ(雇員)、さらにキャリアスタッフから行員への登用機会をつくり、従業員の働きがい・働きやすさの向上に努めてきた。時間外労働の削減に向けた取り組みとしては、時間外労働が発生する場合、その日の午後3時までに上司に理由等を申告して承認を得なければならないというルールをつくった。さらに人事部への報告が必要となる時間も従来の午後8時から午後7時へ変更した。
 また、毎月第2週と毎週水曜日を『早帰り日』として、全従業員が定時退行するよう職場全体で呼びかけを行い、実践している。この結果、2008年には約19時間であった1人当たりの平均時間外労働が、2012年には約14時間まで減少している。今後も地域で模範となるような職場を目指し、ワーク・ライフ・バランスの推進に取り組んでいきたい。」と述べた。

PFUの取り組み
 古谷氏は、「当社のワーク・ライフ・バランス推進活動の1つとして、2004年に『仕事と家庭の両立支援労使協議会』を設置し、定期的な協議を重ね、働きやすい職場環境の構築や両立支援施策の充実を図ってきた。例えば『母親・父親教室』や『パパ子育て講座』は、子育ての悩みや課題を解消することが仕事のパフォーマンス向上にもつながり、業績向上の観点からも大変有効であるという認識のもとに取り組んでいる。また、全社的な取り組みとして、労働環境の整備、労働時間の適正化および働き方の見直し、休暇の取得促進、地域における子育て環境の支援などを行っている。
 社内ホームページを活用した啓発活動にも積極的に取り組んでいる。定期的に発行する「次世代育成ニュース」では、『ワーク・ライフ・バランス写真コンクール』や『パパの育児体験記』、『働き方改革コンテスト』、『料理レシピコンテスト』など、社員参加型のイベントを開催している。また、育児休職を取得した男性社員へのインタビュー記事や、育児や介護などの両立支援に関する社内制度のわかりやすい解説を掲載することにより、制度を利用しやすい社内風土の醸成に努めている。
 また、社内ホームページ上で行った社員アンケートからは、仕事と家庭の両立に有効な施策として多様な働き方への関心が非常に高いということが分かり、在宅勤務制度の導入が検討されるきっかけとなった。こういった社員の具体的なニーズを考慮した取り組みの積み重ねが、低離職率の維持にもつながっているのだと思う。
 また、社内だけでなく、社員親子参加型の『PFUフェスティバル』や、社員と近隣住民の小中学生親子を対象とした『ものづくり教室』、石川県の小学生親子を対象とした『宇宙の学校』などを開催し、地域の子育て環境構築に向けた支援を行っている。」と述べた。

イノベーションにつながるWLBへ
写真  河野氏は、「本日受賞した各社の活動は、単に育児や介護だけではなく、自己啓発や地域への貢献など、幅広いワーク・ライフ・バランスの推進に取り組んでいると感じた。これは制度を整えるステージから、次のステージへ進んでいるということではないだろうか。次のステージとは、制度を利用する人を増やすことだけではなく、その人たちがこれからいかに会社で活躍していくのか、ということである。ワーク・ライフ・バランスを通じて得た価値観や身に付けた能力、知識などを活かして、仕事で活躍する。今後もこのような『イノベーションにつながるワーク・ライフ・バランス』を目指してもらいたいと思う。」と述べた。
 プログラム終了後には、推進委員、ワーク・ライフ・バランス大賞受賞者と参加者による交流会を開催し、活発なネットワークつくりが行われた。

(文責:事務局)