TOPページ > 推進会議から > 日本生産性本部主催 講演レポート

日本生産性本部主催 講演レポート

女性の活躍が拓く会社の未来、鍵を握るのは男性上司!


ダイバーシティ・コンサルタント、キャリア・コンサルタント

植田 寿乃氏

2013年6月27日に行われた日本生産性本部会員月例研究会での植田寿乃氏の講演内容をご紹介します。



女性は組織イキイキ度のリトマス試験紙

 イキイキとしている組織には特徴があります。業績が関係するかというと、そうでもありません。まず一人ひとりがキャリア自立をしていることが大事です。この組織で自分はどうやって成長していきたいかという目標を持っていて、やらなければいない仕事の中に自分の夢が重なっているかです。そして、コミュニケーション。ただしメールではなくリアルでたくさん会話をしていること。それから、女性がイキイキ働いている。
 女性は組織のイキイキ度のリトマス試験紙です。私たち女性はイキイキ度合いを隠せない。男性はポーカーフェイスで建前と本音がありますよね。ただし「イキイキ」というのは「楽々」ということではありません。やっている仕事に自信、やりがいを感じて、前向きに頑張っていて笑顔、というのが大事。そして人間力のあるリーダー、管理職が多いというのが一番大事です。イキイキしていない会社は未来がない、時代が変わったのです。
 2000年までをオールドキャリア時代と言います。会社はまじめに働き続ける企業戦士の集団、軍隊型の組織でした。頭、テクニック、力で人を動かして、チームを動かすことを学びました。部下を鍛えて使いこなし、部下が潰れても業績を出していればリーダーはお咎めなしです。
 しかし、2000年を境にダイバーシティ時代に変わりました。まず日本は高度成長しなくなった。外資は来るし、ITがビジネスのやり方を全部変えてしまう。給料は上がらなくなり、男性も女性も働き続けるのが当たり前になった。さらに、定年退職後に再雇用で働く人もいる。いろいろな人たちが、人生を背負いながら一緒に働く組織です。だから求められるリーダーのあり方もオーケストラの指揮者に大変身。個の尊重、調和、共鳴を大切にする、育てて活かすニューキャリア時代です。

男性の縦糸的強さと女性の横糸的強さを活かす

 軍隊時代を縦糸の時代と私は呼んでいます。ニューキャリア時代は、上下関係の縦糸にネットワークの横糸を紡いだ布の時代になったと思います。縦糸だけではプツっと切れてしまうけれど、布になればしなやかで破れにくい。「私はこの会社が好き。ここで成長してきたし、これからも成長できる。だからこの会社で頑張るんです」という、イキイキとした人たちが結びつき共鳴している組織が強い組織です。
 私は、男性と女性で能力差を感じたことは一度もありません。これまで管理職も大勢教えてきましたが、能力は個人差です。男の人は縦の繋がりがすごく大事ですし、論理性を優先するでしょう。でも女性は横に繋がる力が強いですし、優先するのは感受性です。それは、産む、産まないに関わらず、母親になる可能性のある身体だから。感じるという力をまず使うようにできているし、変化への柔軟性が高い。男の人は研修をしていても、気付くけど変わりにくい。男性の縦糸的強さと女性の横糸的な強さの両方の強さを活かすことで、組織は布の強さをもっていきます。

量ではなく質の変化が大事

 いま、国が女性活躍推進に力を入れていますが、少子高齢化の中、男性の就業人数が少なくなっているから女性とシニアで埋めようという話が一番メインになっています。量の補填も確かにありますが、一番重要なのは縦糸から布への質の変化です。質の変化のために女性が頑張る、これがすごく大事です。
 最近は、草食男子と肉食女子と呼ばれる若い人たちが増えてきました。肉食女子は放っておいてもガンガン育っていきますが、育てなければいけないのは草食男子です。でも、この「育てる」というのを、子育てに関わっていない男性管理職はあまりやったことがないでしょう。だから、女性の管理職が増えないと駄目なんです。女性の管理職はやはり男性と違う、横糸のすてきなパワーを持っています。
 私は、女性リーダーの研修をいろいろな企業がやるべきだと本当に思います。そういう話をすると、「なぜ女性だけか。逆差別だ」という役員が必ずいます。私がいつも言うのは「あなたの会社の管理職の3割が女性ならやる必要はありません。いないでしょう」と。つまり、制度が同じならよいのではないんです。管理職に、ぽつんぽつんといる女性たちの心境を知って欲しい。男性が女性車両に間違って乗ってしまった時のあの心境です。周りの女性たちからの鋭い視線で居たたまれなくなり、息を止めるようなあの感じです。女性の管理職の多くは今でもガンダムスーツを着ています。男と張り合うために、男に見劣りしないように肩肘張って突っ張っている辛さをぜひ知ってほしい。女性管理職や候補を集めて、仲間がいること、そして応援していることを伝えて欲しい。
 男性女性に関わらず人が育つ会社には、3つの重要な関係があります。まず、上司との関係です。上司によって部下の可能性の引き出しが開いたり、閉じてしまったりします。そしてメンターという斜めの関係。メンターというと難しく聞こえますが、例えば直属の上司が異動になってからいろいろ相談するようになったのなら、彼はメンターです。そういう斜めで支え応援してくれる人の関係。そして横の関係。同期、同僚。この3つの関係のうち2つ以上充実していたら、会社に行くのが楽しくなります。何かあって落ち込んでも、相談ができたり、うれしいことがあったら一緒に喜び応援したりできるでしょう。3つあったら最高です。1つではすごく心もとない。これが何もなかったらプチッ。会社を辞めたくなるでしょう。

スーパーウーマンは目指せない。目指すのは雑誌の読者モデル

 では、どうしたら女性がもっと活躍していけるのか。男性にとって、どんな女性社員が理想でしょうか。男性社員と同様に残業、休日出勤ができ、男性社員と同様に転勤、出張ができる、男性社員の慣例・ルールを学び従う、泣き言・文句を言わずにひたすら役割を果たす、仕事も家庭もすべて完璧にこなすスーパーウーマンとか男顔負けのバリバリのキャリアウーマン。これを男性は求めがちです。男と同じような女だと使いやすいからです。バリバリやっている女性たちは、男性に負けないように無理をして鎧を着ていて他人に非常に厳しく部下を育てることはできません。またその鎧は全部ストレスとなり40代になると倒れたり、失速します。スーパーウーマンを目指すのも無理です。仕事も家事も完璧に一人でやるなどというのは絶対に無理です。両方の親が子育てを手伝っているとか夫がものすごくイクメンというのがスーパーウーマンの舞台裏です。女性たちには、自然体のロールモデルになって欲しいです。雑誌の読者モデルみたいなものです。私もできるかもしれないと思えるような素敵な先輩の生き方働き方です。つまり、全ての女性たちが自然体で輝いて働く、生きることが、3歳、5歳年下の女性から見ればロールモデルです。何かに変身することじゃない、そのまま輝き続けることが大事なんです。
 そのためには人生の役割の多様性を理解してほしいのです。企業人、妻、母、嫁と、女性はいろいろな役割があります。男性にもありますが、女性のほうが負荷がかかる場面が大きい。ワーク・ライフ・バランスは重要です。出産、子育て、介護とあるわけですが、介護に関しては子育てを妻に押し付けた男性たちも背負い出しています。

女性のキャリア自立を促す機会を

 そして、女性のキャリア自立を促す機会を創出してください。男性と女性の思考性は違います。例えば、管理職の試験に女性は手を挙げないとよく言いますがそれは違います。男性は、勝ち負けという戦う本能が入っているから手を挙げるのは当たり前なんです。でも女性は横糸のほうが強いから、「私なんて…」と躊躇します。だから背中を押してほしい。「君ならできる。推薦する。応援するからやってごらん。」と、上司が彼女の可能性を引き出してあげてほしいのです。
 そして、女性活躍推進というのは意識改革だけでは駄目です。言動、態度の変革が重要です。経営陣の意識と発言、人材開発部門、管理職、そして男性社員の意識と行動と態度、女性社員の意識と発言と態度のそれぞれの変革が必要です。そして、経営陣と女性たちという、上下からやることが効果的です。頭で分かっていても何も態度に示していないのなら、それは心ではそう思っていないという現れです。自らが体現している事が大事です。

「人間力」を使える管理職が減っている

 管理職、経営陣が、女性活躍推進に取り組むためにも人間力アップは非常に大事ですね。左脳と右脳の話をします。実は「考える」も「感じる」も脳がやっているわけです。考える、文字を書く、文章を書く、計算する、みんな左脳です。感じる、気が付く、ひらめく、そして絵を描くというのは、全部右脳です。私たちは、仕事をしているときに左脳ばかりを酷使しています。特に男性は仕事中は左脳だけで、右脳を封印している人があまりにも多すぎます。
 働いているとき、全脳を使ってほしいです。実は、人間力とは右脳に関係するからです。人間力はスキルや知識ではない、左脳は関係ない。人間としての魅力と言うけれど、生まれながらのものでもないんです。後から培われ、磨かれていくもので、字を分解して読むと、人の間の力と読みます。つまり社会性、対人関係において発揮できるもの。平たく言えば、心の使い方、心配り、EQです。
 私たちはみんな心を持っていて、使えるでしょう。だから人間力がない人はいません。でも、仕事中にそれをうまく使えている人は最近、減ってきました。特に男性管理職で使えていない人が多い。成果主義、能力主義の中で、私たちは頭と体を使って、結果を出すことにあまりに追い込まれていったからです。だから心をどこかに使い忘れていったわけです。
 それが大事だと気が付いたのは、先に成果主義、能力主義をやっていた米国人です。1987年に定義されたEQ(心の知性)は社会生活、会社生活において、IQ、判断する力はもちろん大事だが、他の人とうまく関わる力、EQはIQに勝るとも劣らないし、これなくしては社会生活、人間関係、会社生活は絶対うまくいかないとされています。
 心をうまく使えている人とは、元気、前向き、自然体、好かれる、一緒にいると安心、信頼できる、相談できる、自分のモチベーションに正直、かつコントロールできるし、周りの人のモチベーションに敏感かつサポートできる人です。皆さんが出会った、人間力があるなと思ったリーダーはこんな人ではなかったですか。

男性をイキイキさせるには、女性のイキイキが早道

 女性を活かすリーダーに大事なポイントは7つあります。@自分自身がイキイキしているのか、ストレスを抱えているか。自分のモチベ−ションの状態を感じられるか。A周りの人たち、メンバーがどんなモチベーションの状態かを気づき、心を尊重したコミュニケーションができるか。B状況により適切なリーダーシップを発揮できるかどうか。C部下の話を聴く力があるか。Dストレスマネジメント、メンタルヘルスの知識があるか。E女性のワーク・ライフ・バランスに関する理解がるか、Fセクハラの知識もあったほうがいいと思います。

 これは@からできないと意味がありません。企業によっては、いきなり男性管理職にE、Fの教育をやってしまい、男性上司が女性部下と何もしゃべれなくなってしまったということもあります。私はこのE、Fはそんなに重要だと思っていません。@〜Dができていれば、部下、メンバー全員と信頼関係が作れているはずです。信頼関係があれば、パワハラもセクハラも起こり得ないんです。部下やメンバーとの信頼関係を築くこと、これが一番大事だと思います。
 ダイバーシティという言葉は、アメリカでは人種と宗教です。日本の場合はまずは、性別、そして年齢・いろいろな人たちがいろいろな人生を背負いながら、会社の中でイキイキと共鳴しながら頑張っていける、そんなことを実現してほしいと思います。そういう意味では、女性のイキイキは伝播していきます。男性をイキイキさせたければ、女性をイキイキさせるのが早道です。本当に早道ですので、是非取り組んでいただけたらと思います。(文責事務局)

【プロフィール】

植田 寿乃(うえだ ひさの) ダイバーシティ・コンサルタント、キャリア・コンサルタント

筑波大学芸術専門学群卒後、ベンチャーリンク、アスキーなどを経て、1991年ANAビジネスクリエイトにてマルチメディア事業部長。1998年独立し、有限会社キューを設立。「モチベーション・リーダーシップ」「エグゼクティブのための人間力アップコース」「女性リーダー育成セミナー」等のオリジナルカリキュラムの企業研修や、日本生産性本部の「ダイバーシティ・マネジメント・カレッジ」公開研修にて講師を務める。また、2007年2月からは女性活躍推進に取組む企業の情報共有の場である「女性と組織の活性化研究会」(協力:日本生産性本部)の主宰を務める。有限会社キュー 代表。  

※日本生産性本部研修予定:モチベーションリーダー育成研修2013年12月5日(木)〜6日(金)
女性リーダー・エンカレッジ研修2014年3月6日(木)〜7日(金)